大学で「全微分」を「\(df\…
アインシュタインの縮約表記の解読練習
相対論で出て来るアインシュタインの縮約表記。
初学者には2つの障害があると思います。
1つは「縮約表記されていること自体に気づきにくいこと」。
新しい記号を導入するのであれば、その記号を見つけたら「あ、あの記号だ」となるんですが、アインシュタインの縮約表記は「\(\sum\)記号を省略する」という記法なので、縮約されていること自体、初学者には気づかないことがあると思います。
これについては、1つの項の中に同じ添え字の上下セットが現れて、その添え字について \(\sum\) がついてなければ縮約が発動していると考えてください。
もうひとつは「解読に慣れていないこと」。
せっかく「ん?どうやら縮約表記っぽいぞ」と気づいても「えーと、どう読むんだっけ?」となってしまう。こちらついては、シンプルな処方箋があります。それはズバリ
1つの項の中に同じ添え字の上下セットが現れたら、その添え字についての \(\sum\) 記号を復活させるべし!
です。
以下に、縮約表記を解読する演習問題を書いておきます。
これに慣れてくれば、そのうち \(\sum\) 記号を復活させなくても頭の中で変換、理解することができるようになると思います。
(スマホでご覧の方で式の右側がはみだして表示される場合は、式を左右にドラッグすればスクロールします)
第1問
縮約なしの表記で書き下してください。
\(0 \le \mu \le 3\) として \(dx_{\mu}dx^{\mu}\)
■ 解答例
1つの項の中に同じ添え字の上下セットが現れて、その添え字について \(\sum\) がついてませんね。
縮約が発動しています。
解読方法は、\(\sum\) 記号を復活させることです。
$$dx_{\mu}dx^{\mu} =\sum_{\mu=0}^3{dx_\mu dx^\mu} =dx_0 dx^0 + dx_1 dx^1 + dx_2 dx^2 + dx_3 dx^3$$
第2問
縮約なしの表記で書き下してください。
\(0 \le \mu \le 3, \ 0 \le \nu \le 3\) として \(\eta_{\mu\nu} dx^\mu dx^\nu\)
ただし \(\eta_{\mu\nu}=\begin{pmatrix} -1 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \\0 & 0 & 0 & 1 \end{pmatrix}\)
(\(\eta\) は計量(メトリック)と呼ばれる行列ですが、縮約を書き下すだけならそれについての知識は不要です)
■ 解答例
上下セットの添え字が \(\mu\) と \(\nu\) の2つあるパターンです。
ということは \(\sum\) も2つ省略されているので2つ復活させます。
\begin{eqnarray}
\eta_{\mu\nu} dx^\mu dx^\nu &=& \sum_{\mu=0}^3\sum_{\nu=0}^3\eta_{\mu\nu} dx^\mu dx^\nu \\
&=& \eta_{00}dx^0 dx^0 + \eta_{01}dx^0 dx^1 + \eta_{02}dx^0 dx^2 + \eta_{03}dx^0 dx^3 \\
& &+ \eta_{10}dx^0 dx^0 + \eta_{11}dx^0 dx^1 + \eta_{12}dx^0 dx^2 + \eta_{13}dx^0 dx^3 \\
& &+ \eta_{20}dx^0 dx^0 + \eta_{21}dx^0 dx^1 + \eta_{22}dx^0 dx^2 + \eta_{23}dx^0 dx^3 \\
& &+ \eta_{30}dx^0 dx^0 + \eta_{31}dx^0 dx^1 + \eta_{32}dx^0 dx^2 + \eta_{33}dx^0 dx^3 \\
& & \\
&=& (-1)dx^0 dx^0 + (0)dx^0 dx^1 + (0)dx^0 dx^2 + (0)dx^0 dx^3 \\
& &+ (0)dx^0 dx^0 + (1)dx^0 dx^1 + (0)dx^0 dx^2 + (0)dx^0 dx^3 \\
& &+ (0)dx^0 dx^0 + (0)dx^0 dx^1 + (1)dx^0 dx^2 + (0)dx^0 dx^3 \\
& &+ (0)dx^0 dx^0 + (0)dx^0 dx^1 + (0)dx^0 dx^2 + (1)dx^0 dx^3 \\
& &\\
&=& -dx^0 dx^0 + dx^1 dx^1 + dx^2 dx^2 + dx^3 dx^3\end{eqnarray}
どうでしょうか?
\(\sum\) をつけてさえしまえばもう縮約でもなんでもなくなるので楽勝ではないでしょうか。
第3問
縮約なしの表記で書き下してください。
\(0 \le \mu \le 3, \ 0 \le \nu \le 3\) として \(\eta^{\mu \nu} h_{\mu\nu}\)
ただし \(\eta_{\mu\nu}=\begin{pmatrix} -1 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \\0 & 0 & 0 & 1 \end{pmatrix}\)
■ 解答例
\begin{eqnarray}
\eta^{\mu \nu} h_{\mu\nu} &=& \sum_{\mu=0}^3\sum_{\nu=0}^3\eta^{\mu \nu} h_{\mu\nu} \\
&=& \eta^{00}h_{00} + \eta^{01}h_{01} + \eta^{02}h_{02} + \eta^{03}h_{03} \\
& &+ \eta^{10}h_{10} + \eta^{11}h_{11} + \eta^{12}h_{12} + \eta^{13}h_{12} \\
& &+ \eta^{20}h_{20} + \eta^{21}h_{21} + \eta^{22}h_{22} + \eta^{23}h_{23} \\
& &+ \eta^{30}h_{30} + \eta^{31}h_{31} + \eta^{32}h_{32} + \eta^{33}h_{33} \\
& &\\
&=& (-1)h_{00} + (0)h_{01} + (0)h_{02} + (0)h_{03} \\
& &+ (0)h_{10} + (1)h_{11} + (0)h_{12} + (0)h_{12} \\
& &+ (0)h_{20} + (0)h_{21} + (1)h_{22} + (0)h_{23} \\
& &+ (0)h_{30} + (0)h_{31} + (0)h_{32} + (1)h_{33} \\
& &\\
&=& -h_{00}+h_{11}+h_{22}+h_{33}\end{eqnarray}
第2問とほとんど同じですね。
第4問
縮約なしの表記で書き下してください。
\(0 \le \mu, \nu, \alpha, \beta \le 3\) として
\(\eta^{\mu \alpha} \eta^{\nu\beta} h_{\alpha\beta}\)
ただし \(\eta_{\mu\nu}=\begin{pmatrix} -1 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \\0 & 0 & 0 & 1 \end{pmatrix}\)
■ 解答例
添え字は \(\mu, \nu, \alpha, \beta\) の4つありますが、縮約されているのは添え字が上下セットになっている \(\alpha, \beta\) の2つだけです。なので\(\sum\) は \(\alpha\)と\(\beta\) についての2つを復活させます。
\begin{eqnarray}
\eta^{\mu \alpha} \eta^{\nu\beta} h_{\alpha\beta}
&=& \sum_{\alpha=0}^3\sum_{\beta=0}^3\eta^{\mu \alpha} \eta^{\nu\beta} h_{\alpha\beta} \\
&=& \eta^{\mu 0} \eta^{\nu 0} h_{00} + \eta^{\mu 0} \eta^{\nu 1} h_{01} + \eta^{\mu 0} \eta^{\nu 2} h_{02} + \eta^{\mu 0} \eta^{\nu 3} h_{03} \\
& &+ \eta^{\mu 1} \eta^{\nu 0} h_{10} + \eta^{\mu 1} \eta^{\nu 1} h_{11} + \eta^{\mu 1} \eta^{\nu 2} h_{12} + \eta^{\mu 1} \eta^{\nu 3} h_{13} \\
& &+ \eta^{\mu 2} \eta^{\nu 0} h_{20} + \eta^{\mu 2} \eta^{\nu 1} h_{21} + \eta^{\mu 2} \eta^{\nu 2} h_{22} + \eta^{\mu 2} \eta^{\nu 3} h_{23} \\
& &+ \eta^{\mu 3} \eta^{\nu 0} h_{30} + \eta^{\mu 3} \eta^{\nu 1} h_{31} + \eta^{\mu 3} \eta^{\nu 2} h_{32} + \eta^{\mu 3} \eta^{\nu 3} h_{33} \end{eqnarray}ここからどうすればいいでしょうか?
例えば \(\eta^{\mu 0}\) の値は、\(\mu=0\) なら \(-1\) ですし、\(\mu \ge 1\) なら \(0\) です。
つまり、\(\mu, \nu\) の値によって答えが変わるんです。
その組み合わせは何通りあるでしょうか?
\(\mu\) が4とおり、\(\nu\) が4とおりなので合計 16 とおりです。
16とおりの結果は、16個の式を書くより 4 x 4 の行列で書いた方がスマートです。
では、続きを \(h_{\mu\nu}\) を成分とする 4×4 の行列 \(H\) で表してみましょう。
例えば \((\mu, \nu) = (0,0)\) のときは、
\begin{eqnarray}
H_{00}
&=&\eta^{0 0} \eta^{0 0} h_{00} + \eta^{0 0} \eta^{0 1} h_{01} + \eta^{0 0} \eta^{0 2} h_{02} + \eta^{00} \eta^{0 3} h_{03} \\
& & + \eta^{0 1} \eta^{0 0} h_{10} + \eta^{0 1} \eta^{0 1} h_{11} + \eta^{0 1} \eta^{0 2} h_{12} + \eta^{0 1} \eta^{0 3} h_{13} \\
& & + \eta^{0 2} \eta^{0 0} h_{20} + \eta^{0 2} \eta^{0 1} h_{21} + \eta^{0 2} \eta^{0 2} h_{22} + \eta^{0 2} \eta^{0 3} h_{23} \\
& & + \eta^{0 3} \eta^{0 0} h_{30} + \eta^{0 3} \eta^{0 1} h_{31} + \eta^{0 3} \eta^{02} h_{32} + \eta^{0 3} \eta^{0 3} h_{33} \\
& & \\
&=&(-1)(-1)h_{00} + (-1)(0) h_{01} + (-1)(0) h_{02} + (-1)(0) h_{03} \\
& & + (0) (-1) h_{10} + (0)(0) \eta^{0 1} h_{11} + (0)(0) h_{12} + (0)(0) h_{13} \\
& & + (0)(-1) h_{20} + (0)(0) h_{21} + (0)(0) h_{22} + (0)(0) h_{23} \\
& & + (0)(-1) h_{30} + (0)(0) h_{31} + (0)(0) h_{32} + (0)(0) h_{33} \\
& & \\
&=& (-1)(-1)h_{00} \end{eqnarray}
これをその他の \(\mu, \nu\) の組み合わせについても計算すると次のようになります。
\begin{eqnarray}H &=& \begin{pmatrix} (-1)(-1) \cdot h_{00} & (-1) \cdot 1 \cdot h_{01} & (-1) \cdot 1 \cdot h_{02} & (-1) \cdot 1 \cdot h_{03} \\
1 \cdot (-1) \cdot h_{10} & 1 \cdot 1 \cdot h_{11} & 1 \cdot 1 \cdot h_{12} & 1 \cdot 1 \cdot h_{13} \\
1 \cdot (-1) \cdot h_{20} & 1 \cdot 1 \cdot h_{21} & 1 \cdot 1 \cdot h_{22} & 1 \cdot 1 \cdot h_{23} \\
1 \cdot (-1) \cdot h_{30} & 1 \cdot 1 \cdot h_{31} & 1 \cdot 1 \cdot h_{32} & 1 \cdot 1 \cdot h_{33} \end{pmatrix} \\
&=& \begin{pmatrix} h_{00} & – h_{01} & – h_{02} & – h_{03} \\
– h_{10} & h_{11} & h_{12} & h_{13} \\
– h_{20} & h_{21} & h_{22} & h_{23} \\
– h_{30} & h_{31} & h_{32} & h_{33} \end{pmatrix}\end{eqnarray}(ただし \(H_{\mu\nu}\) は \(\mu, \nu\) に対する値)
(計算が間違えていたらスミマセン)