最小作用の原理を使って作用から…
【解析力学】 「始点+初速度」でも運動が一意に決まる理由は?
■ 一般的には・・・
質点の運動を最小作用の原理(変分原理)から求めようとすると、次のような形の式に辿り着きます。
$$\delta S = \left[ \ \ (A) \ \delta x \ \ \right]_{t_i}^{t_f} – \int_{t_i}^{t_f} \left\{ \ \ (B) \ \delta x \ \ \right\} dt = 0 \tag{1}$$\(t_i, t_f\) はそれぞれ初期時刻(Initial)と終了時刻(Final)です。第1項は定積分の括弧です。
だいたいの参考書では、
(1)の第1項・・・時刻 \(t_i \) と \(t_f\) では \(\delta x = 0 \) と仮定しているのでゼロで消える
(1)の第2項・・・任意の \(\delta x\) について(1)が成り立つには (B) がゼロの必要がある
として、第2項から運動方程式が求まる、としています。
■ 運動が「一意に」決まるには?
ここで、ちょっと待ってください。
最小作用の原理を使えば運動が「一意に」決まるはずです。
それなのに、運動方程式 \(m \frac{d^2 x(t)}{dt^2} = F\) が出ただけでは、それを2回積分して \(x(t)=\cdots\) の形にすると積分定数が2つ残ってしまって一意に決まらないではありませんか。
つまり、質点の運動を一意に決めるには、運動方程式だけでは足りません!
運動方程式以外に条件式が2つ必要です。高校物理では「初期位置」と「初速度」などで与えられていました。
ではその2つの条件式は一体どこにあるのでしょうか?
答えはズバリ、第1項の背後に隠されています。
第1項は初期時刻と終了時刻における質点の位置 \(x_i, x_f\) が既知であることを表しています。これらが運動を一意に決めるのに必要な2つの条件式です。これらを用いれば2つの積分定数を決めることができます。
■ 「初期位置」と「初速度」でも運動が一意に決まる理由は?
しかし! 先ほども書いたように、高校物理の力学では、「初期位置」と「終了位置」が与えられていることなどほとんどなくて、多いのは「初期位置」と「初速度」が与えられているパターンでした。
最小作用の原理によると、初期位置と終了位置がわからないと(1)の第1項がゼロにならないはずなのに、初期位置と初速度でも運動が一意に決まるのはなぜなのでしょうか?
それは、
「初速度 \(v_i\) を与えるということは、時刻 \( t_f = t_i + dt \) における位置を終了位置に指定していることになるから」
だと思います(そうです、「思います」なんです。確認できる資料が見つけられておらず(笑))。
そうだとすると、時刻 \( t_f = t_i + dt \) まではいいとして、さらにその後の挙動も予測することはできるでしょうか?確認しておきましょう。
そのためには、時刻 \(t_f = t_i + dt\) における質点の位置と速度がわかればOKです。
同じことを繰り返せばいいですからね。
\(t_f\) における位置は \(x_i + v_i dt\) ですね。
\(t_f\) における速度はどうすれば求められるでしょうか。
表に整理してみましょう。
時刻 \(t\) | \(t_i\) | \(t_f = t_i + dt\) |
位置 \(x\) | \(x_i\) | \(x_i + v_i dt\) |
速度 \(v\) | \(v_i\) | \(v_i + (F_i / m)dt\) |
加速度 \(a\) | \(F_i /m\) | \(F_f /m\) |
時刻 \(t_i\) における加速度は、\(x_i\) における質点にかかる力を \(F_i\) とおくと (1)の第2項から出てくる \(ma = F_i\) より \(a = F_i/m\) です。
そこから、終了位置における速度は \(v_i + \frac{F_i}{m} dt\) と求められます。
これで、時刻 \(t_f = t_i + dt\) における位置と速度が求められました。
同じ手順を繰り返すことで質点のこの先の挙動を予測する仕組みの出来上がりです(^^)。
最小作用の原理は「未来から現在が決まる」というイメージがあるかもしれませんが、このように考えれば、ニュートン力学的に「無限小の時間の積み重ね」と考えることもできそうですね。
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