自然単位系から c, ħ を復元する方法


場の量子論などを勉強していると、自然単位系という単位系に出くわすことが多いと思います。

自然単位系については、
自然単位系だと \(c\) と \(\hbar\) が消せる
ということと
消した \(c\) と \(\hbar\) はいつでも復元できる
ということはご存知の方も多いと思います。

消す方は単純に \(c\) と \(\hbar\) を 1 で置き換えるだけなので問題ないでしょう。

一方、 \(c\) と \(\hbar\) を復元(復活)させる方は目撃したことがないという方もいらっしゃるのではないでしょうか?

この記事では \(c\) と \(\hbar\) を復元する実例を4つご紹介します。
(私も勉強中なので間違いなどあればご指摘ください。)

(スマホでご覧の方で式の右側がはみだして表示される場合は、式を左右にドラッグすればスクロールします)

【例1】\(E=mc^2\)

■ 問題

自然単位系の \(E=m\) をSI単位系に変換してください。

■ 解答例

これはいいですね。計算するまでもなく \(E=mc^2\) です。

【例2】クライン-ゴルドン方程式

■ 問題

自然単位系で表された次の方程式(クライン-ゴルドン方程式)をSI単位系に変換してください。
$$\left[ \frac{\partial^2}{\partial t^2} – \nabla ^2 + m^2 \right] \psi(\boldsymbol{x},t) = 0$$
■ 方針

SI単位系から見ると、今各項の次元はバラバラですよね。これを揃えます。

\(\psi(\boldsymbol{x},t)\) の次元は、わからなくても両辺をそれで割れば消えますので無視してOKです。

また「SI単位系」と指定されていますが、SI単位系([m], [kg], [s])でもcgs単位系([cm], [g], [s])でも解き方はまったく同じです。

で、初めてやる方だと、おそらくまず思いつくのがすべての項に \(c ^ \alpha \hbar ^\beta\) という形の係数を置いて、 \(c\) の次元は \(LT^{-1}\)、\(\hbar\) の次元は \(ML^2T^{-1}\)で・・・という方法ではないかと思います。

それでももちろん解けるんですが、けっこう手間がかかります。
未知数の数が6個の連立方程式になりますので。

そこでちょっと工夫します。

ポイントは、エネルギーの次元も考えることです。

使うのは次の2式です。
$$[\hbar] = ET, \ \ \ [\hbar c] = EL$$ (\(E\) はエネルギー、\(T\)は時間、\(L\) は長さの次元)

■ 解答例

まず、質量の次元 \(M\) をエネルギーの次元 \(E\) に置き換えます。
左辺第3項の \(m\) をSI単位系から見てエネルギーになるようにするために、第3項に \(c^4\) を掛けます。
$$\left[ \frac{\partial^2}{\partial t^2} – \nabla ^2 + (mc^2)^2 \right] \psi(\boldsymbol{x},t) = 0$$自然単位系から脱出するときは、このように必要なだけ \(c\) や \(\hbar\) を掛けて最後に次元を合わせればOKです。この時点での各項の次元は次のとおりです。
$$\frac{1}{T^2}, \ \frac{1}{L^2}, \ E^2$$
次に、すべての項の次元がそろうように、各項に \(c\) と \(\hbar\) の適当な冪(べき)を掛けます。
\([\hbar] = ET, [\hbar c] = EL\) より、第1項には \(\hbar ^2\)、第2項には \((\hbar c)^2\) をかければすべての項の次元が \(E^2\) で揃います。
$$\left[ \hbar ^2 \frac{\partial^2}{\partial t^2} – (\hbar c)^2 \nabla ^2 + (mc^2)^2 \right] \psi(\boldsymbol{x},t) = 0$$これで終わりでもいいですが、一応よく見る形に変形するために両辺を \( (\hbar c)^2\) で割っておきます。
$$\left[ \frac{1}{c^2} \frac{\partial^2}{\partial t^2} – \nabla ^2 + \left( \frac{mc}{\hbar}\right)^2 \right] \psi(\boldsymbol{x},t) = 0$$SI単位系でのクライン-ゴルドン方程式の完成です。

【例3】数値を求める(1)

■ 問題

自然単位系でガチャガチャ計算した結果、ある寿命 \(\tau\) が下記のように表されることがわかったとします。
$$\tau = \frac{2}{\alpha ^5} \frac{1}{m} \tag{1}$$ ・\(\alpha\): 微細構造定数 \(\frac{1}{137.04}\)(無次元)
・\(m\): 質量(=0.511 [MeV])
    (質量は \(E=mc^2\) でエネルギーととらえると都合がいいことが多いです)

\(\tau\) の数値を次の単位系で具体的に算出するにはどうすればいいでしょうか?
・長さ、質量、時間 ・・・cgs単位系 (\( \rm{cm, \ g, \ s} \))
・エネルギー・・・\(\rm{MeV}\)

■ 方針

「cgs単位系」や「MeV」にひるまないでください(笑)。

cgs単位系だからといってSI単位系とやることは何も変わりません。
MeV の方も、J (ジュール)と同じエネルギーの単位だということさえわかればOKです。

ポイントは、やはり【例2】と同様にエネルギーの次元を考えることです。

まず、(1)はcgs単位系から見ると \(m\) の次元が質量なので、エネルギーにするために右辺の分母に \(c^2\) を掛けます。
$$\tau = \frac{2}{\alpha ^5} \frac{1}{m} \ \ \to \frac{2}{\alpha ^5} \frac{1}{mc^2} \tag{1′}$$
次に、右辺の次元が「寿命」の次元 \(T\)(時間)になるように、(1′)の右辺に \(c\) と \(\hbar\) の適当な冪(べき)を掛けます。

その後、数値を代入して値を計算します。

そのとき次の値を使います。
$$\hbar = 6.58 \times 10^{-22} \ \rm{MeV \cdot s} ・・・(2)\\
\hbar c = 1.973 \times 10^{-11} \ \rm{MeV \cdot cm}・・・(3)$$
■ 解答例

(1′) の右辺の単位は \( \rm{1 / MeV}\) なので、時間の単位 \(\rm{s}\) にするには \(\rm{MeV \cdot s}\) を掛ければOKです。
そのためには、(1′)の右辺に(2)を掛ければいいことに気づきます。
$$\tau = 2 (137.04)^5 \frac{ \left( 6.58 \times 10^{-22} \rm{MeV \cdot s} \right)} {\left( 0.511 \rm{MeV} \right)} = 1.24 \times 10^{-10} \rm{s}$$
なお、これは「ポジトロニウム(電子-陽電子束縛系)の基底状態 \(1 {}^1 S_0\) の寿命」だそうですが私はまったく理解できていません(^^;。

【例4】数値を求める (2)

■ 問題

【例3】と似た問題をもう1問やっておきましょう。

自然単位系でガチャガチャ計算した結果、ある断面積 \(\sigma\) が下記のように表されることがわかったとします。
$$\sigma = \frac{8\pi}{3} \frac{\alpha^2}{m^2} \tag{4}$$ ・\(\alpha\): 微細構造定数 \(\frac{1}{137.04}\)(無次元)
・\(m\): 質量(=0.511 [MeV])

\(\sigma\) の数値を次の単位系で具体的に算出するにはどうすればいいでしょうか?
・長さ、質量、時間 ・・・cgs単位系 (\( \rm{cm, \ g, \ s} \))
・エネルギー・・・\(\rm{MeV}\)

■ 方針

【例3】と同じです。
(右辺の分母に \(c^4\) をかけてエネルギーの次元にします(4’))
断面積の次元は \(L^2\) です。

■ 解答例

(4′) の右辺の単位は \( \rm{1 / MeV^2}\) なので、断面積の単位 \(\rm{cm^2}\) にするには \(\rm{(MeV \cdot cm)^2}\) を掛ければOKです。
そのためには、(3)を2乗したものを右辺に掛ければいいことに気づきます。
$$\sigma = \frac{8\pi}{3} \left(\frac{1}{137.04} \right)^2 \frac{ \left( 1.973 \times 10^{-11} \rm{MeV \cdot cm} \right) ^2} {\left( 0.511 \rm{MeV} \right) ^2} = 6.65 \times 10^{-25} \rm{cm^2}$$
なおこちらは「トムソン散乱の全断面積」だそうですがこれまた私はまったく理解できていません(^^;。

以上です。

今回は長かったですね。。


参考:
場の量子論〈第1巻〉量子電磁力学 p.102~




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