行列の計算は、まずは成分を1つ…
内積(スカラー積)が座標回転のもとで不変であることの確認
物理ではよく「ベクトルの内積は座標を回転しても変わらない」という事実を利用します。
このことを、2次元ベクトルの座標回転を例に確認しておきましょう。
(式の右側がはみだして表示される場合は、式を左右にドラッグすればスクロールします)
■ 回転変換を表す式
高校数学の「一次変換」で習ったベクトルの回転は次のように表されました。
$$\left(\begin{array}{c} x’ \\ y’ \end{array}\right) = \begin{pmatrix} \cos{\theta} & \color{red}{-}\sin{\theta} \\ \sin{\theta} & \cos{\theta} \end{pmatrix}\left(\begin{array}{c} x \\ y \end{array}\right) \tag{1}$$ただしこれは、座標はそのままでベクトルを \(\theta\) だけ回転させる場合です。
今やりたいのは、ベクトルはそのままで、座標を\(\theta\) だけ回転させる場合です。
その場合は次のようになります。
$$\left(\begin{array}{c} x’ \\ y’ \end{array}\right) = \begin{pmatrix} \cos{\theta} & \sin{\theta} \\ \color{red}{-}\sin{\theta} & \cos{\theta} \end{pmatrix}\left(\begin{array}{c} x \\ y \end{array}\right) \tag{2}$$ご覧のとおり、マイナスのつく位置が、右上の \(\sin\) から左下の \(\sin\) に変わります。
理由は、座標を \(+\theta\) 回転することは相対的にベクトルを \(-\theta\) 回転することに相当するからです。
(1)の \(\theta\) に \(-\theta\) を代入すると(2)になります。
■ 座標を回転しても内積は不変であることを確認する
(2)の変換のもと、内積が不変であることを示します。
変換前の2つのベクトルを \(\vec{x}=\left( \begin{array}{c} x_1 \\ x_2 \end{array} \right), \vec{y}=\left( \begin{array}{c} y_1 \\ y_2 \end{array} \right)\) とすると、内積は \(\vec{x}\cdot \vec{y} = x_1 y_1 + x_2 y_2\) です。
\(\vec{x}, \vec{y}\) は座標回転によって成分がそれぞれ次のように変わります。
$$\left(\begin{array}{c} x_1′ \\ x_2′ \end{array}\right) = \begin{pmatrix} \cos{\theta} & \sin{\theta} \\ -\sin{\theta} & \cos{\theta} \end{pmatrix}\left(\begin{array}{c} x_1 \\ x_2 \end{array}\right)$$$$\left(\begin{array}{c} y_1′ \\ y_2′ \end{array}\right) = \begin{pmatrix} \cos{\theta} & \sin{\theta} \\ -\sin{\theta} & \cos{\theta} \end{pmatrix}\left(\begin{array}{c} y_1 \\ y_2 \end{array}\right)$$
よって変換後の \(\vec{x}’, \vec{y}’\) の内積 \(\vec{x}’ \cdot \vec{y}’\) は
\begin{eqnarray}\vec{x}’ \cdot \vec{y}’ &=& (x_1 \cos{\theta} + x_2 \sin{\theta})(y_1 \cos{\theta} + y_2 \sin{\theta}) + (-x_1 \sin{\theta} + x_2 \cos{\theta})(-y_1 \sin{\theta} + y_2 \cos{\theta}) \\
&=& x_1 y_1 + x_2 y_2 = \vec{x} \cdot \vec{y}\end{eqnarray}
となり、回転前の内積と一致します。
■ 当たり前?
回転しても内積が不変なのは、なんとなく当たり前のような気がする方もいらっしゃるのではないでしょうか。
では、例えば、内積の定義式が \(\vec{x}\cdot \vec{y} = x_1 y_1 + x_2 y_2\) ではなく \(\vec{x}\cdot \vec{y} = x_1 + y_2\) だったとするとどうでしょうか?
その場合、変換後の \(\vec{x}’, \vec{y}’\) の内積 \(\vec{x}’ \cdot \vec{y}’\) は
\begin{eqnarray}\vec{x}’ \cdot \vec{y}’ &=& (x_1 \cos{\theta} + x_2 \sin{\theta}) + (-y_1 \sin{\theta} + y_2 \cos{\theta}) \\
&\ne& x_1 + y_2\end{eqnarray}
となり、回転前の内積と一致しません。
つまり、座標系を回転してもベクトルの内積が不変であることは、内積の定義式が \(\vec{x}\cdot \vec{y} = x_1 y_1 + x_2 y_2\) であるからこそ実現できているということがわかります。
■ 仲間もいる
なお、内積と同じように、座標系を回転しても変わらない量として「外積」もあります。
外積の定義式は \(\vec{x} \times \vec{y} = x_1 y_2 – x_2 y_1\) です。
参考:
キーポイント行列と変換群 (理工系数学のキーポイント (8))
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